物語で読み解くデリバティブ入門

最近本のレビューばかり書いてるような気もするが…まあせっかく読んでアウトプットすることでさらに理解が深まるということを狙っているので、今日もレビューを。


初めて見た時は「ストーリーとしての競争戦略」と似たようなタイトルだったのでなんて二番煎じなんだ、と思ったら実は単行本が昔出ていたらしい。ので、のっかったような本ではないっぽい。

まず、著者の森平爽一郎氏はファイナンス会の大御所。プロフィールを引用すると、「1947年生まれ。69年・学習院大学経済学部卒業、85年・テキサス大学オースチン校経営大学院博士課程修了(Ph.D.取得)。福島大学経済学部助教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授、日本保険・年金リスク学会副会長。専攻は応用ファイナンス論」とのことです。

デリバティブとは一言で言うと、「ある金融商品や指数、事象等を元にしてキャッシュフローを生み出すように作った金融商品」。例えば保険もデリバティブの一種として紹介されているが、がん保険だとすると、「月々1000円払っておく」ことによって「がんになるという事象」が起きた場合に「数万円払われる」ということ。これは「がんになるという事象」に対してキャッシュフローを生み出していることから、デリバティブの一種と言える。

内容としては、実際に最近実務の場面で使われている(であろう)デリバティブそのものの説明よりも、歴史的に用いられてきたリスク管理の手法等が、実はデリバティブの一種です、というものに近いか。事例が豊富でわかりやすい面もあるが、一方で、個々の商品(コールオプションetc)については数式があったほうが結局は理解が早まるような気もする。

デリバティブを全く知らない人にとっては、デリバティブの性質や具体的な例などについては知ることができるが、結局はデリバティブとはなんなのか、どういう種類のものがあるのかという「全体感」はつかみづらいかもしれない。

一方で、数理ファイナンス等でデリバティブを学んだことがある人などにとっては、歴史的経緯や実際に使われているデリバティブの事例等に触れられるので、興味深い面もあると思う。

個人的には、「テロ先物」などの政治的な事象を対象にしたデリバティブは非常に興味深かった。これは、「Xヵ月以内に○○でテロが起きるか、もし起きたらY円支払う」などとして決められるもの。これを行うことによって、様々な情報を集められる可能性があるというのはなるほどと思えた。

今回の地震の件にしても、ファイナンスの世界にしても、情報というものは非常に重要な役割を果たしているのだと強く感じる。「人類が使う全ての情報を集め整理して閲覧可能にする」ことを企業理念にしているグーグルが大躍進したのもうなずける。